【食を読む】「もてなしとごちそう」コロナで遠くなった、あの悦び

サステナブル料理研究家、一般社団法人DRYandPEACE代表理事のサカイ優佳子です。

2011年からは特に、現代のライフスタイルに合わせた乾物の活用法の研究、発信に力を入れています。

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私が主催する読書会「シェアReadingの会」の2月の会に参加してくださったTさんが、「古本を売りに行ったときに、偶然手にした本なんですけど、すっごく良かったんです」とご紹介くださった中村安希著「もてなしとごちそう」(大和書房)を読んでみました。

684日間にわたる世界旅行を敢行した著者が、旅先でもてなされた体験について書いたこの本を、ときに自分の過去と重ね合わせ、ときに涙を滲ませながら一気に読みました。

ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。

standFM 「サカイ優佳子の 食卓で世界旅行

1 手作りの食事だからこその、悦び

「もてなしとごちそう」

旅好き、食好きに、ぜひおすすめしたい本 

「この方のこと、初めて知ったんですけれど、こんなに濃い体験をしていることに驚いたんです。なぜ世界のあちこちで自宅に招待してもらえるのか、その旅の仕方も不思議」

そんな風にTさんが紹介してくれたこの本、すぐに図書館で予約を入れました。

コロナの時代にあって失われてしまった、旅をする楽しさ、人との何気ない出会い、もてなしたりもてなされたりすることの悦び、ともに食べることで育まれる何かあったかいもの、、。

中村さんが描く世界は、レストランで会食するという中では生まれない何か、なんですよね。

2 とにかくお客様の多い家でした

恒例の鍋パーティー

年末恒例の鍋パーティーも、しばらくはお預けでしょうか、、、

私の実家は、友だちが気軽に遊びにくるという雰囲気の家ではありませんでした。

「大人になったら、人が遊びに来てくれるような家を作りたいなあ」と漠然と思っていました。

なぜ、そう思ったのか、きっかけは全く思い出せないのですが。

そして、それは実現し、ときに私のキャパを超えるほどになるときもありました。

たまに書いたり話したりしてきましたが、一時は3ヶ月に渡って、毎週末インド人を中心にしたヴェジタリアンたちが我が家で食事をしていました。

仕事で日本に滞在していた彼らは、宗教的な禁忌から日本のレストランでは安心して食事ができないと、我が家にくるようになったのです。

もっとも多かった日は、42人が訪れました。

家族の仕事仲間を中心に、基本的にはほぼ毎週末誰かが来ている。そんな日々が10年以上は続きました。

他にも、私が国際交流の団体に所属していた関係から、ウズベキスタン人男性やタイ人の母娘が泊まりに来たり(タイの家族との関係は今も続いています)、中国人の学生が遊びに来たりということもありました。

いろいろな事情があり、今はそんな「もてなし狂想曲」的なことはなくなりましたが、基本的には人をもてなすことが私は好きなようです。

だから、この本を読みながら、中村さんを迎える人々の想いの中に、す〜っと入っていけるように感じました。

3 ロヒンギャ、リトアニア、ジンバブエ、、

見たことがないアキーという植物の実に興味津々

シェアReadingの会でご紹介いただく本をその後一人で読むとき、ご紹介いただいた方の視点が入り込みます。

Tさんは、例えばこんな場面をピックアップして紹介してくれました。

1日に200円しか稼ぎのないロヒンギャ難民にコーヒーをごちそうしてもらって「私は難民ではないし、お金も持っているのに、、」とやりきれない想いになりながら、難民である彼らに人としての尊厳を感じたというのは、なんか読んでいる方もやりきれない思いになったんです。

モンゴルの旅先で出会った女性たちをリトアニアの自宅に訪ねていったときに(これだけだって滅多にない経験)、3人の家をめぐり、前菜、メイン、デザートと歓待してもらう場面は、本当に愉快なの。

ジンバブエで声をかけてきた中国人に、ふわふわの卵チャーハンをご馳走になるのだけれど、そのチャーハン、どんな味だったんだろうってチャーハンが食べたくなりました。

読みながらその場面に遭遇すると、

「ああ、これが彼女が感動したと話していたところだ」とか、

「あれ?紹介していただいたのとはちょっと違うように感じるな」とか、

「そういう流れの中での、このお話しだったのね」とか

そんな風に感じながら読むんですよね。

4 思わず涙ぐんでしまったミャンマー編

この本には、旅先での写真が数葉ずつ収められています

私が思わず涙を滲ませてしまったのは、ミャンマー編。

軍事政権下で出会い、何日にも渡ってもてなしてもらった女性に「またきてね」と言われても答えられなかった過去。

9年後、スー・チー政権下で再訪し、いつでもミャンマーを訪れることができる時代になったことを喜び、「また会いにくる、必ず来るよ」と別れた二人。

今のミャンマーの状況を知って読むと、なんとも辛く感じられました。

また、ウガンダで登山旅行に出かけたとき、著者が「なんでも食べられる」と答えたことからの失敗談のあとのこの言葉に考えさせられるものがありました。

「何でもいい」という一見すると柔軟な態度は、選択肢が限られていた時代には歓迎されたかもしれない。(中略)世界中どこにいっても世界中の食べ物が食べられるという状況下では、(中略)これが食べたい、あれがいい、ときちんと要求することは、単なる狭量さやわがままではなく、もてなす側に「最高のもてなしをするチャンス」を与える親切な配慮でもある。

もてなす側ともてなされる側、対峙するように思われますが、でも実は共感の瞬間を持つためには双方が関わっていることに、改めて気づかされました。

5 上海での束の間の出会い

この本には、聞いたこともない料理や食材もたくさん登場し、家庭ならではの料理が紹介され、「食べてみたい!」と食欲が増します。

旅好きな人は、さまざまな場所の光景の描写に、「ああ、また旅に出たい」と思わされることでしょう。

人が好き、料理が好きな人は、「誰かと一緒に食事をしたい!おもてなしをしたい!」という思いにさせられるのではないでしょうか?

こんな人と人との繋がりが増えていったら、世界は平和に向かうだろうにとも感じるのです。

中村さんにとっては、訪れた国々の話題が出るたびに、そこで出会った人たちの顔が思い浮かぶはず。

その国々のことは、他人事ではなくなるはずです。

食好き、旅好き、人好き、料理好きの人に、心からおすすめしたい本です。

この本を読んでいて、ふと、10年ほど前、上海の空港でのある出会いを思い出しました。

私は一人で乗り継ぎ時間までを、空港内のレストランのカウンターで飲み物を飲みながら過ごしていました。

隣に座ったのは、アメリカ人と見られる若い男性。

中国語ができず、言いたいことが伝わらずに困っている様子でした。

旅行中国語程度ならできるので通訳をかってでたら、とても喜んでビールを一杯奢ってくれ、そして彼は身の上話をはじめました。

中国人の彼女ができて、彼女の家にいくことになって二人でアメリカから中国に来たこと。

旅の途中で彼女と喧嘩して別れてしまい、でもせっかく来たのだからと予定通り中国国内を1ヶ月ほども回ったけれど、地方では英語がわかる人がほとんどいなくて苦労してきたこと、これからアメリカに帰るところであること。

「君に会えて助かったよ。こんな話をしちゃってごめん。」

「いいのよ、こんなこともあるのが旅のいいところ。元気出して。またきっと素敵な出会いがあるに違いないから。」

連絡先はもちろん、名前も知らないまま別れたその彼は、今頃どうしているのでしょうね。

忘れていたそんなことまで、思い出しました。

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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