藤原辰史「戦争と農業」と「縁食論」〜食を中心にした教育へ

人間の暮らしを豊かにするはずのテクノロジーの発展が、むしろ戦争や飢餓をうんできたと、著者はいいます。

その状況を変えるために、できることとは何か?

戦争と農業」(藤原辰史 インターナショナル新書)を読みました。

サステナブル料理研究家、一般社団法人DRYandPEACE代表理事のサカイ優佳子です。

2011年からは特に、現代のライフスタイルに合わせた乾物の活用法の研究、発信に力を入れています。

日々の食卓を手軽に美味しく楽しみながら、キッチンから世界をみる眼を持ち続けたいと思います。

日々の食に役立つ情報をお届けする食育メルマガを書いています。
ぜひ、食から世界をみる仲間になってくださいね!
サカイ優佳子の 楽しく 美味しく 未来を創る

 

1 テクノロジーが戦争や飢餓を生む理由

「排除」が前提の民主主義

著者は、全ての民が餓えない民主主義は、未だかつて存在したことがないと言います。

どの国でも、民を飢えさせないために、国内の一部の人間や国外の人間を排除の対象にすることが行われてきたというのです。

農業のための技術は、戦争にも役立つ

例えば、トラクターは戦車になり、化学肥料は火薬を生みました。

戦後、使い道がなくなった毒薬は、農薬へと姿を変えて世界に広まりました。

世界初の植物工場は、アメリカの原子力潜水艦での食を確保するために作られ、東日本大震災のあと、原発の夜間電力を効率的に利用するために被災地での植物工場が政府により進められました。

著者は、農業の技術と戦争の技術は、どちらにも使える「デュアルユース(dual use)」だと言います。

そして、技術があるのに使うなというのは、おもちゃを目の前にした子供にそれに触るのを禁止するようなものだ、とも。

技術の発展は、諸刃の剣でもあるというのです。

2 「終焉」を迎えている食を捉え直す

食本来の性質である、「非耐久性」「自然性」「精神依存性」のどれもが失われているのが現代であり、「食と農を、定義し直す必要がある」と、著者はいいます。

食べることの再定義

人間は、「生き物の死骸が通過し、たくさんの微生物が棲んでいる一本の弱いチューブ」と考え、

食べることは、腸内細菌や土壌微生物との共同作業とし、下水も考えることで世界とつながると著者は言います。

人だけではなく、動植物や微生物までに従来の民主主義が対象とする範囲を拡張しようというのです。

この考え方は、土三部作で知られるデイビッド・モントゴメリーの「土と内臓」などの著作に通じるところがあります。

排除なき民主主義

著者は、即効性を求めすぎることが、上記の「排除」や「戦争」につながったと考えているようです。

そして、「排除なき民主主義」を、私たちは微生物の発酵に学ぶことができるとします。

3 著者が考える処方箋

5つの提案

そんな今の食の終焉から抜け出すために、著者は

  1. 害を及ぼす企業への申し立て
  2. 有機農業
  3. 種子を選ぶ
  4. 微生物の力
  5. 食べる場所の再設定

を提案します。

台所と料理の教育

台所と料理の教育が必要とし、あらゆる学問の根っこがここにあるとしています。

そして、5について、学ぶことができる食堂と調理室が、学校の中心になってもいいのではないか?と提案します。

共食、共育の融合は、「即効」に対峙する「遅効的教育」で、これをベースにしていこうというのです。

4 読み終えて

子ども食堂

この本は、2017年に書かれています。

著者の藤原辰史さんは、農業史と環境史を中心にした歴史学者で、ナチスの食に関する研究もされています。

食に関する著作も多く、2020年に出た「縁食論ー孤食と共食のあいだ」も話題になっています。

「縁食論」へ

縁食論 藤原辰史

「戦争と農業」の5つ目の提案が、さらに発展するとこういう提案になるのだなと思いながら読みました。

「縁食論」では、子ども食堂のような場を評価し、またさらに進めて、誰でも利用できる「無料食堂」を作ることが提案されていました。

人と集う、人とともに食べることが難しくなっているコロナの時代を経て、家でも学校でも会社でもない、行っても行かなくてもいい、でも行けば、いい距離感で人と接することができる、そんな場が必要だとしているのです。

それも無料で食事ができる仕組みを作ることが必要だ、と。

「人新世の『資本論』」と近い考え方

人新世の『資本論』」の斎藤幸平さんとも、考え方が近いように感じました。

斎藤さんは、誰もが自由に使うことができる分野=コモンを増やすことが必要であると提案しています。

藤原さんが「戦争と農業」でいう「食べる場所の再設定」、そして「縁食論」でさらに進めた無料食堂の考え方は、食をコモンにしようという流れに位置付けられます。

斎藤さんの本については、また改めて書きたいと思います。

5 何からスタートするのか

教科を食で学ぶ

食の探偵団が考えた食育の一つのあり方

学校での食育

2002年にスタートした食育ワークショップ「食の探偵団」の一部で、食をベースに教科を学ぶという「授業」を各地でやらせていただいた経験があります。

「小学生がこんなに考えることができるんだ!」と実は驚いたことがありました。

そして、「普段は授業で発言しない子どもたちが積極的に発言していたのが印象的でした」というご感想を先生方から多くいただきました。

学校に、食を中心にした教育(広い意味での食育)を導入することの意義は、古くはアメリカで始まったEdible Schoolyardプロジェクト(学校菜園プロジェクト)で、荒れた学校が生まれ変わった話などからも、誰もが認めざるを得ないでしょう。

食堂と調理室を中心にした教育は、学びの意味を知る上でも大切と思います。

キューバでは、アメリカによる経済封鎖をきっかけに食農教育を徹底させたことが知られています。

誰もが農への理解を持つことで、社会は変わると思われます。

個人でできること

選ぶことができるのであれば、何を食べるのかを選ぶ、あるいは何を食べないのかを選ぶことをしていきたいと思います。

それだけではなく、時間はかかるかもしれませんが、食べ物を手作りしたり、野菜を育てたり、料理をしたりという時間を、意識的に持つようにすることも、著者の提案にそう行動と言えそうです。

人の欲望のコントロール

民主主義や資本主義の限界が広く認識されるようになってきた時代において、これからどんなことが必要なのか、考え方を変えていかなければいけないのは確かです。

一方で、すぐに欲しい!早く結果を出したい!もっと欲しい!

そんな、人の欲望のコントロールをどうするのかは、どうしても残ってくる課題です。

そういう「即効性」を求める姿勢を、自分の考え方の中からも少しずつでも減らすようにしていくことが、社会全体を遅効性へと移行させるためには、必要なのでしょうね。

いろいろ考えさせられる本でした。

食に関する本の情報だけを書いたメルマガを発行しています。

メルマガ「食を読む」購読ボタン

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

食に関するお役立ち情報はメールマガジンで発信中→ここから登録