【食を読む】ハイペースで温暖化が進む日本の海で何が起きている?

温暖化で日本の海に何が起こるのか

元朝日新聞の記者で科学ジャーナリストの山本智之氏の「温暖化で日本の海に何が起こるのか」を読みました。

以前は海が二酸化炭素を吸収してくれていることを良いこととされていましたが、近年は、実はそうではなく、温暖化によってすでに海の環境が大きく変化してきていることが問題とされています。

著者自身が海に潜って目にしたことや、多くの研究者への取材などにより、今、日本の海がどういう状況にあるのか、このままだと将来どうなるのかについて、とてもわかりやすく書かれている本です。

ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。

目次
1 海の温暖化によるサンゴの八方塞がりの状況
2 南方系の魚が北上、冷水を好む魚は減る
3 海の酸性化で貝やエビに異変
4 日本の海の温暖化はハイペース?


1 海の温暖化によるサンゴの八方塞がりの状況


海の中で、陸上の熱帯雨林のような役割を果たしているサンゴ。
サンゴの白化が近年メディアにも取り上げられています。

サンゴは褐虫藻と共生関係にあります。
実は、この褐虫藻が高温に弱いのだそうです。
サンゴは光合成をすると言われますが、実際に光合成をしてCO2を吸収しているのは褐虫藻。

自らの触手を使ってプランクトンなどを食べることができるサンゴではありますが、必要な栄養の大部分は褐虫藻から得ているため、褐虫藻の不在はサンゴの栄養失調に繋がり、白化から死へと向かいます。

また、海水温が高くなると、受精卵が幼生になって海底に付着するまでの時間が短くなるため、より遠くの海に移動することが難しくなり、さらには高温でサンゴの幼生の死亡率も高まるのだとか。

一方で、天敵のオニヒトデが増えて、駆除しなければサンゴが守れないほどの状況に。
生活排水で窒素やリンが流れ込んだ海で植物プランクトンが増え、これを餌にするオニヒトデの幼生が大発生するという仕組み。
サンゴにとっては、このままでは八方塞がりの状況ということになりそうです。

この写真は、6年前に沖縄の座間味でシュノーケリングした時に撮影したもの。
サンゴは白く色が抜けてしまっていました。

沖縄のサンゴ


2 南方系の魚が北上、冷水を好む魚は減る


海水温が上がることで、暖海系のサワラが日本海で水揚げされたり、ぶりが北海道でも上がるようになってきています。
冷たい水を好むマアナゴの幼生は、日本近海の海の温度が高いと、沿岸まで寄ってくることができないと言われ、2050年にはオホーツク海の大部分でサケにとっての適水温を超えるというシミュレーションもあるとのこと。

例えば秋刀魚の減少は、「鉛直混合」が起こらないことによるのではないかと言われているのだそうです。

鉛直混合とは、海の浅いところと深いところとでの水の循環。
冬に海の表層が冷えると、比重が重くなることで海水が沈み、代わりに底の方にある海水が上昇します。

深い場所の海水はリンや窒素などの栄養塩を多く含むので、これを餌に植物プランクトンが増え、結果、それを食べる動物プランクトンが増加。そしてそれを餌にする秋刀魚が増える、減れば秋刀魚も減るということに。

他にも、日本食のベースとなる昆布は冷水を好み、近年は不作が大きな問題とされています。
また、海苔も海水が冷えないと養殖を始めることができず、養殖期間が短くなってきていると言います。


3 海の酸性化で貝やエビに異変


温暖化とともに問題になるのが酸性化。
世界の海の表層海水は、平均してpH8.1の弱アルカリ性ですが、海に溶け込む二酸化炭素濃度が増えるとpHが低下、つまり酸
性化します。

酸性化すると、例えば稚貝が殻を形成しにくくなり、捕食される確率が高まり、生存率が低下、ウニの幼生の腕が短くなり、捕食能力が低下、ある種のエビの生存率が大幅に低下、などなど、すでに影響は観察され始めています。

一方で、酸性化で成長が促される生物もいるとのこと。
ただ、何れにせよ、今までの海洋生物のバランスが大きく変わることになるのは間違いなさそうです。


4 日本の海の温暖化はハイペース?


温暖化も酸性化も、本当に深刻な問題になるレベルになるのはまだまだ先のこと、と考える人もあるかもしれません。
でも世界平均に比べて日本の海はハイペースで温暖化が進んでいると著者は言います。

日本の漁業を考えると、日本近海の状況がどうなっているのかを掴んでおく必要があり、その変化によっては、今まで当たり前のように食していた魚介が、いつの間にかとれなくなってしまうことにもなりかねないことが、この本を読むとひしひしと感じられます。

最近、海についてはプラスティックのことが大きく取り上げられており、それももちろん大きな問題ですが、温暖化と酸性化の影響も、もっと注目されていいように感じます。

私たちひとりひとりにできることは、こうした問題を意識して、自分の暮らしの中で温暖化や酸性化に繋がることを、ほんの少しずつでもやめてみることなのかなと思います。
便利になった暮らしを元に戻すのは不可能。
なので、小さなことから始めてみようと思います。

 

 

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

食に関するお役立ち情報はメールマガジンで発信中→ここから登録