【食を読む】「日本捕鯨史 概説」捕鯨は伝統文化?

日本捕鯨史概説

少し前に、アイスランドから輸入されたというナガスクジラのお刺身を食べて、あまりの美味しさに驚き、鯨についてちょっと調べてみようかなという気になり、この本「日本捕鯨史 概説」を手に取りました。

ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。

目次
1 日本の捕鯨はどう進んできたのか
2 捕鯨は日本の伝統文化なのか?
3   この本を読んで鯨肉についてどう感じたか


1 日本の捕鯨はどう進んできたのか


著者の中園成生氏は、博物館の学芸員、捕鯨史の研究を続けている方。
日本の捕鯨史を以下のように分類しています。
そして、鯨の利用、鯨にまつわる文化についても記しています。

<初期>
産業化以前、BC4000年から1570’s
<古式捕鯨>
前期    1570’s~1677 突取法 四大漁場(安房、紀伊半島、土佐、西海=山口)が形成される
中期    1677~1840’s 網掛け突取法 肉は塩漬けに、脂は油に、骨のカスは肥料に、ヒゲなどは細工物に全てを利用する
後期    1840’s~1906   定置網&銃殺法 欧米が日本近海にまで。不漁傾向に。
<近代>
前期    1906~1934  ノルウェー式砲殺法 企業利益の最大化
後期    1934~1982  南極海への出漁 各国が捕鯨オリンピック状態で乱獲が進む
<管理捕鯨>
1982~

そして、日本はIWC(国際捕鯨委員会)を脱退し、2019年7月1日から商業捕鯨を再開しました。
商業捕鯨を再開とはいっても、鯨肉がそれで安くなるという訳ではないらしいこと他あれこれは、以前ブログに書きました。
「口の中でとろけるようなナガスクジラの刺身を食べながら考えた」
https://yukakosakai.com/whale/


2 捕鯨は日本の伝統文化なのか?


1962年には、一人あたり年間2.4kg食べられていた鯨。
その後、牛、豚、鶏などの肉が普及する中で、まだ管理捕鯨時代に入る前の1977年には0.7kgにまで減っています。

著者は、捕鯨という産業は、今の日本にとって経済的な大問題にはならないことから、「政治にとって捕鯨問題は当たり障りのないナショナリズムの発露」として利用されてきたと指摘。外交などで批判されれば主張をすぐ引っ込めてみるなど場当たり的な対応がされてきたことに批判的な意見を持っています。

そして、過去はともかく、企業利益の最大化を目指した近代以降の捕鯨を文化や伝統ということができるのか?と疑問を投げかけます。

鯨の生息数や生態をしっかり把握して、持続可能な捕鯨を目指してもらいたい、という著者の主張はもっともなこと。


3 この本を読んで
鯨肉に関してどう感じたか


鯨は、畜産肉が一般に普及する前にはタンパク質補充源として大きな役割を果たしたのかもしれません。

でも今こうして歴史を読んでみて、日本全体にとって伝統文化なのかはちょっと疑問に感じました。
四大漁場を中心にした、日本の地域に継承されてきた伝統文化ではあるのは確かですが。
もちろん、だから軽視していいという訳ではなく、著者が指摘するように持続可能な形で引き継がれていってほしいと思います。

私は、小学校の給食で鯨の竜田揚げを美味しく食べた世代。1968年から73年にかけてのことです。
新潟出身の義母は、夏によく食べたという鯨汁を「懐かしいわ」と作ってくれたことがありましたが、私には馴染みのない味。脂が多くてちょっと苦手でした。
千葉の和田浦の名物は、鯨のタレ。ツチクジラの保存食です。店で見かけても特に買おうとは思わないのが実際のところです。
(ちなみに、ツチクジラはそもそもIWCの捕鯨禁止の対象にはなっていません)

私が食べて絶品と思った鯨肉はアイスランドからの輸入モノでした。
一切れ300円ほどもして、普段のおかずとして食べる価格ではありません。

鯨肉文化のある地域を旅した時や、鯨肉専門店などで、鯨のこと、捕鯨の歴史のことなどを学びながら、たまに美味しくいただく珍味ということになるのかなあと思っています。

食をテーマにしたオンライン読書会(未読OK、予習不要)を毎月開催しています。
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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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