料理に興味を持たせるしくみ

食卓の上に出される料理に、私たちは日々、どれだけ注意を払っているでしょうか。

「昨夜何を食べましたか?」という質問に、すぐに思い出して答えらえる人は意外に少なかったり、、。
あるいは、
「お味噌汁に入っていた野菜はなんでしたか?」と聞くと、「う〜ん、何か菜っ葉は入っていたな」とか、、。

ちょっとおもしろい店の試みに出会って、食育について考えたことを書きました。

ほぼ同じ内容の音声配信はこちらでお聴きいただけます。

目次
1 謎のメニュー
2 食卓の上の料理に興味を持たせる
3   視界を閉ざして食事をする
4   食育の初めの一歩


1 謎のメニュー


西麻布の和食店「ラ・ボンバンス」を訪れました。
このお店で話題なのが、そのお品書き。
お任せでお願いするのですが、一体何が出てくるのか、、暗号なのです。

若い女性スタッフが毎日考えているのだそう。
常連さんになるとパターンがわかってしまうのかもしれませんが、この暗号を見ながら、「次の料理は何だろう?」と客はテーブルで謎解きをすることになります。

実際、「あ〜、これわかった!」と思うと嬉しいし、でもそれがどんな形で供されるのかに期待が高まります。
解読できないときは、正解がわかって「なるほど〜」と思うし、食べ終わった時にも何を食べたかの記憶に残りやすいように感じました。

以前、「脳の第一言語はイメージ」という話を聞いたことがあります。
文字だけではなく、絵入りで書かれているのも大きいのかもしれません。

 


2 食卓の上の料理に興味を持たせる


息子が幼稚園に通っていたとき、レタスと白菜とキャベツの違いがわからないと先生に伺って、ちょっと悩んだことがありました。

私なりになぜ、そうなったのかを考えてみるに、5歳上の娘を育てていたときに比べて、食卓の料理のことを話題にすることが圧倒的に少なくなっていたからなのではないかと思ったのです。

娘が幼い頃は、平日は二人きりでご飯を食べることが多かったので、「今日のお味噌汁の中身、なんだと思う?」とか、「このお魚な〜んだ?」とか、自然と料理に関する話をしていたように思うのです。
息子が生まれた頃には、娘は5歳。
幼稚園に通っており、また話好きな娘だったので、その日の出来事をたくさん話してくれます。
食卓ではそうした話題が中心になり、料理そのものを話題にすることはやはり少なくなっていたんでしょうね。
その分、何を食べているのかということには意識が向かなくなっていたのかもしれません。

それからは、意識して料理や食材に関する話題を食卓で取り上げるようにしてきました。


3  視界を閉ざして食事をする


もう10年ほども前のことになりますが、浅草の緑泉寺で行われている「暗闇ごはん」を取材させていただいたことがあります。

青江覚峰さんが「もっと食に興味を持って欲しい」という想いから始めたもので、参加者は控えの間に通されたところで目隠しをするよう求められます。そして、手を引かれ、食事をとる部屋へと連れて行ってもらうのですが、食事の間中、目隠しをしたまま過ごします。

視覚が閉ざされることで、これから出てくるものはなんなのか?という期待が高まり、箸の先で触った料理の感触にすら意識が注がれ、口に近づく際に香りが鼻に届き、そして口内で食感と風味を認識するという、普段なら無意識に行なっている行為が、いちいち意識されるようになるのです。いちご入りのババロアを口にした時、イメージがカラーで脳内に浮かんだのを覚えています。

ちょうど同じ頃に参加した、dialog in the darkというイベントでも、暗闇で何も見えない中を、目が見えず白杖を使っている方のガイドで進んでいくという体験をしました。
「ここはバーです。お飲み物は何にしますか?」と尋ねられ、赤ワインをお願いしました。テーブルの上に置かれたワイングラスに手を伸ばすとき、香りが私を導いてくれました。不思議な感覚でした。


4  食育の初めの一歩


「感じる食育 楽しい食育」という本を出したのは、2004年のこと。
2002年から「食の探偵団」という名前で食育ワークショップを開催してきました。

五感で感じること、食を通じて社会を見ることを軸にしたものでした。

キーメッセージは、自分が食べているものに、もう少し意識を向けてみませんか?ということでした。
いろいろな意味で。

食育の目的は、ただ健康的に食べる術を見出すだけとは思っていません。
もちろんそれも大切なことですが、一部でしかないという認識です。
体にいいものを選ぶことができるのは、恵まれた人たちでもあるわけで、、。

私が考える食育の目的は、さまざまな条件の中で、最適な食を選ぶことができる力を育むこと。

その初めの一歩となるのが、まずは日々食べているものを意識すること。

そこから、全ての「質問」が生じてくると思うのです。
「質問」をもつことが、未来の食へと繋がっていきます。

昨晩、夕飯には何を食べましたか?

 

 

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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