エノキや干しエノキは生で食べられますか?〜乾物料理のプロが解説

エノキダケ

先日、自家製乾物講座の受講生からご質問をいただきました。

「エノキのサラダは甘いとか、干したエノキはサキイカのようで美味しいとか聞くんですが、生で食べても大丈夫なんでしょうか?」

調べてみました。

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エノキは加熱して食べましょう

エノキは、原則として加熱せずに食べるのはNGです。

原則としてと書いたのは、最近は、生食OKとする技術もあるそうだからです。

とはいえ、一般に売られているエノキは、加熱してから食べるようにしましょう。

東京農業大学の橋本貴美子教授は、

「知っておいて欲しいことは、きのこは生で食べれば全て毒である(程度の差はあるが)という事実である」

参照 : モダンメディア64巻 9号 2018 「きのこ毒について

としています。

そして、エノキダケに含まれるフラムトキシンという毒性物質についても言及しています(以下で詳述)。

エノキを食べるとき、加熱が必要な理由

エノキダケを加熱すべき理由はこの二つによります

  • フラムトキシン
  • リステリア菌

順番に説明しますね。

フラムトキシンの毒性

フラムトキシンは、エノキダケに含まれるタンパク質で、「溶血毒」「溶血素」などと呼ばれる物質の一つで、ヒトの腸管上皮細胞に作用します。

溶血素の多くは、細胞膜上にに孔を形成することによって、赤血球、白血球や血小板を溶かし、貧血症状を引き起こします。

「エノキタケ子実体に存在するフラムトキシンは,ヒト白血球など多くの動物細胞に膜孔を形成して細胞崩壊あるいは膨潤をおこす。」

岡崎国立共同研究機構 生理学研究所年報 2002 p.133
膜孔形成タンパク質による腸管上皮細胞の体積変化の解析」冨田敏夫(東北大学大学院農学研究科) 

ただ、フラムトキシンに関する注意事項は、厚労省のサイトでは見つかりませんでした。

ということは、少なくとも少し食べたところでそれほど重篤な症状になるというものではなさそうです。

一つには、一般的に日本ではエノキは加熱して食べられているから症例が少ないのかもしれませんが。

フラムトキシンは加熱で失活する

フラムトキシンは加熱で無毒化するのは確かなようです。

ただ、何度で何分くらい加熱すれば無毒化できるのか、信頼できるソースが見当たりませんでした。

念の為、さっとしゃぶしゃぶする程度ではなく、しっかり中まで加熱するように心がけておこうと思います。

リステリア菌の毒性

リステリア菌は、エノキダケに特有の菌ではなく、広く普通の環境に存在しています。

厚労省のサイトによると、国内ではリステリア菌による食中毒はあまり報告されていないとのこと。

でも、最近、細切りチーズに、

「加熱して食べてください」

と注意書きがあるものが増えています。

ナチュラルチーズは加熱処理をしていないため、リステリア菌がついている可能性があるからとのこと。

欧米では、チーズ、生ハム、スモークサーモンでの症例が多くみられるそうです。

アメリカで起きた死亡事故
食中毒

ではなぜエノキに関して、リステリア菌のことが騒がれるのでしょうか。

米国疾病予防管理センター(CDC)によれば、

アメリカで販売された韓国産のエノキダケを食べて、

  • 17州で36人が食中毒を起こして4人が死亡
  • 妊婦6人が感染症状を起こし、そのうち2人が流産

という事故が2020年に起きたからです。

韓国では日本と同様、一般にエノキダケは加熱してから食べます。

一方で、アメリカではマッシュルームを生で食べる習慣があります。

その習慣から、多くの人がエノキダケを生のまま食べてしまったことが、こうした大きな事故に繋がってしまいました。

妊婦、高齢者、免疫力が低い人は重篤になる可能性も

Most people who are exposed to Listeria will only develop mild symptoms, though illness can be severe in those most at-risk. Those at increased risk of illness include pregnant women and their unborn babies, newborn babies, the elderly, and people of all ages with immune systems weakened by illness or medication.

Food Standards Australia New Zealand 

Listeria Monocytogenes linked to fresh enoki mushrooms imported from South Korea

  • 妊婦と胎児
  • 新生児
  • 高齢者
  • 免疫疾患がある人
  • 免疫を下げる薬を飲んでいる人

こうした人たちは、少量のリステリア菌摂取でも、敗血症や髄膜炎など重篤な状態(リステリア症)になることがあるので、特に注意が必要です。

リステリア症の潜伏期間は、平均20時間。

食中毒全体の中では0.02%程度と頻度は非常に少ないながら、一旦発症すると死亡率は30%と高いそうです。

参照(株)東邦微生物病研究所のホームページ 「リステリア属菌「リステリア・モノサイトゲネス

世田谷区のふたばクリニックのホームページに、こんな記述を見つけました。

  • 健常人が、リステリアMに汚染されたメニューを摂食しても、発症することはほとんどありません。
  • 感染のターゲットは、妊婦・胎児と感染弱者(乳幼児、高齢者、免疫弱者)です。
  • 感染弱者・感受性者がリステリアMを経口摂取すると、1日~10日後にインフルエンザのような筋肉痛を伴う発熱を認めます。
  • 菌血症・敗血症・髄膜炎に進展した場合は、意識障害や痙攣(けいれん)を合併します。
  • 妊娠中の女性の発病率は、健常人の20倍と高くなります。
  • リステリアMに妊娠中の女性が感染した場合、母体の症状は無症状・軽症でも、胎児に影響が及ぶ場合もあります。
  • 流早産の原因になるばかりではなく、胎児髄膜炎を発症します。

ふたばクリニック 「冷凍食品に潜むリスク

リステリア菌も加熱で失活

上記のアメリカでの事故を受けて、韓国農林畜産食品部は、

  • リステリア菌は70度以上で3~10分程度加熱すれば死滅する
  • 冷蔵温度(0~10度)でも成長が可能なので、冷蔵庫を過信しない

と発表し、注意を促しています。

参考 WOW Korea 「米国で韓国産「エノキダケ」食べて4人死亡…韓国農林畜産食品部「食文化の違いのため

冷蔵、塩漬けでは増殖を続ける、冷凍でも死なない

(株)東邦微生物病研究所のホームページには、その特徴が挙げられています。

  • 75度数分の加熱で死滅
  • 0〜45度で増殖
  • 耐酸性が強い
  • 常温では10%の食塩水でも増殖できる

参考 (株)東邦微生物病研究所リステリア属菌 リステリア・モノサイトゲネス

気をつけなければいけないのは、漬物やピクルスなどにする場合です。

リステリア菌は、長くおくほど増殖します。

漬物やピクルスなどの保存食は、塩や酸を加えていることでつい安心してしまうかもしれません。

でも、リステリア菌は、塩分にも酸にも強いのです。

厚労省も、リステリア菌は「12%食塩濃度下でも増殖できる」としています。

キムチなどの漬け物に入れた場合も、加熱していなければ増殖することになります。

ピクルスにする場合もやはり加熱してからにしましょう。

冷凍しても、増殖はしないものの死滅はしないようです。

世田谷区のふたばクリニックのホームページに、以下のようにあります(出典不明)。

  • マイナス4℃(-4℃)でも、活動は可能であり、数年間生存します。
  • マイナス20(-20℃)でも、生存できます。

ふたばクリニック 「冷凍食品に潜むリスク

電子レンジの加熱の際は要注意

電子レンジで加熱するのでも大丈夫ですか?

市販されているキノコ類は加熱すれば問題なく食べることができます。

先に紹介した東京農業大学の橋本貴美子教授は、キノコ毒について、一般に食用とされる椎茸一つを生で食べただけで一日外に出られないような下痢になることもあることを紹介した上で、

「電子レンジでの調理では(中略)鍋で煮るのと違って、ちゃんと煮えているかがわかりにくい」

としています。

電子レンジ調理の際には特に注意して、しっかり熱々になるまで加熱するようにしましょう。

干したエノキも、生ではダメ?

干しエノキをおつまみのように売っているのをみたことがあるんですが、大丈夫なんでしょうか?

「干したエノキはサキイカのような味で美味しい」という話は、私も何度か耳にしています。

干してあれば大丈夫なのでしょうか?

長野市の保健所が、キノコについて、

毒キノコは、塩漬け、乾燥、水にさらす等の加工をしても食べない。」

と注意を呼びかけています。

「また、一般に食用とされているエノキタケ(フラムトキシン)、シイタケ(ホルムアルデヒド)、エリンギ(シアン配糖体)、マイタケ(プロテアーゼ)などのきのこを生や加熱不十分で食べると中毒を起こす可能性があるので、十分に加熱してから食べてください。

とも書いています。

長野市ホームページ「毒きのこによる食中毒が発生しています

メーカーに問い合わせてみました

市販の干しエノキを数品チェックしてみました。

その中に「そのままでもお召し上がりいただけます」と書いてある商品を見つけたので、メーカーに問い合わせてみました。

乾燥の際に高温の熱風乾燥をしているので問題がないんです。ご安心ください。」との回答をいただきました。

「アメリカの件もありますから、ご心配ですよね」とおっしゃっていたので、ちゃんとわかっているんだなと安心しました。

ただネットの情報を見る限り、熱風乾燥しているなどの情報は掲載されていないので、消費者にはわかりにくいように思います。

市販品については、そのまま食べられるという記載がない場合は、製造工程で加熱していない可能性があるので、加熱してから食べてください。

生のエノキダケを自分で自然乾燥させたものは、もちろんそのまま食べないでくださいね!

まとめ

エノキのサラダが美味しい!などのレシピ提案も、ネット上にはみられます。

鵜呑みにせず、エノキは十分加熱してから食べてくださいね。

ダシも出て、食感もよく、エノキタケリノール酸やキノコキトサンなど、最近注目されている成分も含まれているエノキダケ。

しっかり加熱して美味しく安全に食べたいものです。

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ABOUTこの記事をかいた人

サステナブル料理研究家/一般社団法人DRYandPEACE代表理事
東大法学部卒。外資系金融機関等を経て、娘の重度のアトピーをきっかけに食の世界に。

食には未来を変える力があるという信念のもと、今のライフスタイルにあった乾物や米粉の活用法を中心にレシピを開発している。
料理教室の開催、企業向けメニュー開発、研修など多数。

料理を自由に発想でき、毎日の料理が楽しくなる独自の「ピボットメソッド」を考案。個人やメニュー開発が必要な方向けのトレーニングも行っている。

著書14冊。メディア出演多数。

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